すべての灯り11 / 16

第十章君に任せたい

二月の終わり、岡野が第一期の試験結果を持ってきた。

各拠点から受け取った出荷の例で、情報を引き継ぎ、必要な表を出せるか確かめていた。共通の部分は安定していた。返品のような例外は、人が条件を確かめて追加した。AIが整理を速くし、新しく加わった社員も手順を覚えた。三月の切り替えまでに、残る修正を終えられる。

航は立ち上がり、ありがとう、本当に助かった、と言った。

岡野は嬉しそうにした。夜間の当番に追われず、共通部分をまとまった時間で作れたことが大きいという。交渉で守った条件が、仕事に返ってきていた。

岡野が第一期の試験結果を航へ示し、航が立ち上がって礼を言う。岡野は仕事が届くことを嬉しそうに受け取る。小さな事務所、本物の共通処理と開発の成果。
守った条件は、作る仕事へ返っていた。

航には次の話があった。開発を一つの部署にし、岡野へ責任者を任せる。採用にも参加してもらう。最初から最後まで見られる仕事を望んでいた彼に、任せられる範囲を増やす。

「やりたいです」

岡野は答えた。それから資料を一枚、机へ置いた。問い合わせ整理の効果を計った表だった。

「阿部さんを切る理由に、これを使ったと聞きました」

航は椅子へ座り直した。

「仕事が減ったのは事実だろう」

「転記が減りました。設定を確認する仕事まで、なくなったとは書いていません」

「新しい二人もいる」

「その二人へ、阿部さんが教えたところもあります」

航は採用時の役割の違いを説明した。岡野は理解していた。全員が同じ能力で交換できるとは思っていない。それでも阿部に半年かけて教える選択を、利益が薄くなるという理由で捨てたことを聞いていた。

岡野は表の右端を指した。

岡野が転記を減らした測定表の右端を指し、航へ次も誰かを切るのかと尋ねる。航は採用の予算を持つ。二人の小さな会議机、具体的な質問と別の話へ移す手。
尋ねたことの返事が、別の条件へ移った。

「次に僕が十時間減らしたら、また誰かを切りますか」

航はすぐに答えられなかった。

「そうと決まったわけじゃない」

「皆が手順を出さなくなるのが、怖いんです」

廊下で、新しい社員が小池へ、前の画面では何を確かめていたのか聞いていた。小池は一度、自分の席へ戻って説明を始めた。机の横に立つ二人を、岡野はガラス越しに見た。

航は新しい部署の予算を出した。試験に使う時間も、設定を確かめるための人もつける。欲しい人の条件を聞くと、岡野の答えは航が考えたものより具体的だった。

作業時間の資料を脇へ寄せ、採用予算を広げる航と、向かいに座る岡野
話は採用の条件へ移っていった。

二人は三十分、採用の話をした。実際に必要な話だった。予算も、紙の上だけではなく使えるものだった。

「だから、君に任せたい」

航は言った。

岡野は頷き、表を重ねた。帰る前に、阿部へ説明する資料には自分の名前を使わないでほしいと言った。

「効果の測定は僕がしました。解雇を提案したのは僕ではありません」

「分かってる。こうやって言ってくれる人がいて、よかった」

航は笑った。岡野は笑わなかったが、部署の話を断らなかった。

会議室を出た岡野は、理恵の机で立ち止まった。彼女は阿部の最終給与を確かめていた。二月末で雇用が終わる。書類の送付先は、先月選んだ部屋だった。

「僕だけ残って、部署を持つんですよね」

理恵は画面から目を離した。

「その仕事をやりたいのは、嘘じゃないでしょう」

「はい」

「私も給料が要ります。ここで続ける理由があります。でも、何を決めたのが誰かは、消さないほうがいい」

理恵が机のそばの岡野へ、自分も給与が要り勤務を続ける理由があると話す。阿部の給与の書類がそばにある。くすんだ紫のカーディガンと四角い眼鏡。代表の判断への同意と、本人の生活を分ける。
残る人にも、続ける理由がある。

彼女は阿部の書類を封筒へ入れた。角が曲がらないように押さえ、閉じる前に宛名をもう一度見た。

二月末、理恵が阿部の書類を封筒へ収め、岡野はその机の前で立ち止まっている。
何を決めたのが誰かを、消さない。

岡野は自分の席へ戻った。挨拶案に航が書いた、ここまで来た以上、前へ進むしかない、という一行を消すよう提案した。航は翌日の説明会でその文を読まなかった。

代わりに、さらに多くの現場へこの時間を届けたい、と言った。

言葉はよくなっていた。岡野は社員の席で聞きながら、質問への答えを受け取ったかどうかを考えた。

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目次

HELL · すべての灯り

  1. 01序章|お祝いだから
  2. 02第一章|動いている画面
  3. 03第二章|七分早い午後
  4. 04第三章|外へ続く道
  5. 05第四章|二つの青
  6. 06第五章|誰も困っていない
  7. 07第六章|三年後の席
  8. 08第七章|新しい椅子
  9. 09第八章|写真の外側
  10. 10第九章|机の高さ
  11. 11第十章|君に任せたい
  12. 12第十一章|一時間の用事
  13. 13第十二章|花を送る
  14. 14第十三章|会議の終わり
  15. 15第十四章|完全勝利
  16. 16終章|明日の欄
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